相続放棄の選択について

 家庭裁判所において相続放棄の手続きをすると、はじめから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。つまり、被相続人の下記の財産の両方を相続しなくなります。
   プラスの財産(預貯金、不動産)
             +
   マイナスの財産(借金、滞納税)

 一度、相続放棄の手続きをすると、プラスの財産が発見されても相続することができなくなるため、選択には注意が必要です。

単純承認をすると、相続放棄ができなくなる可能性があります。

 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する、とされています(民法第920条)。相続放棄をする予定の方は、次の単純承認をしないように注意しなければなりません。

単純承認とは?

相続人が、以下の行為をしたときは、単純承認をしたものとみなす、とされています(民法第921条)。
① 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条 に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
② 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
③ 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

①相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときとは?

「処分」とは、財産の現状・性質を変更したり、財産権の法律上の変動を生じさせたりする行為です。
例えば、
・被相続人の預貯金を引き出して、相続人が自己のために使用したとき
・被相続人の財産について遺産分割協議を行ったとき
・被相続人の財産を売却、毀損、取壊をしたとき など

②期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったときとは?

 相続人は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない、とされています。(民法第915条)
 つまり、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内家庭裁判所に相続放棄の申述しなければなりません。
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは
①相続開始の原因である事実
②自分が法律上の相続人となった事実

上記①及び②の両方を知った時です。

①相続開始の原因である事実
・被相続人がお亡くなりになった事実です。
 相続人が被相続人が死亡した事実を知らなければ、相続開始から何年が経っていたとしても、知った時から3ヶ月以内であれば相続放棄ができます。

②自分が法律上の相続人となった事実
・被相続人の配偶者やお子さんが相続人である場合
 被相続人がお亡くなりになったときと基本的に一致します。
・被相続人被相続人の直系尊属、兄弟姉妹などが相続人である場合
 先順位の相続人(直系尊属の場合はお子さん、兄弟姉妹の場合はお子さん・直系尊属)がいるときには、①の被相続人がお亡くなりになった事実を知ってもその時点では相続人となりません。先順位相続人(直系尊属の場合はお子さん、兄弟姉妹の場合はお子さん及び生存の直系尊属の方)が全員、相続放棄したことを知ることにより、はじめて、自分が法律上の相続人となることを知ることになります。

*上記、①または②の事実を知ったときから3ヶ月経過後であっても、特別な事情が存在する場合には、相続放棄の申述ができる場合もあります。

③相続放棄の申述をしたあとも注意が必要?

家庭裁判所に、相続放棄の申述が受理された後でも、相続財産の全部・一部を隠匿し、私にこれを消費したときには、単純承認したものとみなされますので、ご注意ください。